健康

【医師と理学療法士が解説】尿もれの原因は「骨盤底筋の緩み」?“骨盤底筋体操”で尿もれ対策

不意に起こる尿もれにお悩みの方もいるのではないでしょうか?
今回は、女性に起こりやすい「尿もれ」の原因や対策についてご紹介。

「尿もれが起こる原因」と「尿もれ対策に有効な骨盤底筋体操」について、「女性医療クリニックLUNAネクストステージ」院長の中村綾子さんと理学療法士の笹岡愛加さんに詳しくお聞きしました。

【監修者】
女性医療クリニックLUNAネクストステージ
院長 中村 綾子

中村 綾子

2007年横浜市立大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター臨床研修医を経て、2009年横浜市立大学泌尿器病態学に入局。みなと赤十字病院、横浜市立大学附属病院、藤沢市民病院勤務を経て、横浜保土ヶ谷中央病院に勤務。2013年9月女性医療クリニックLUNAで泌尿器科外来を開始。2017年4月LUNA骨盤底トータルサポートクリニック院長就任。

 

女性医療クリニックLUNAネクストステージ
理学療法士 笹岡愛加

sasaoka

高知県の総合病院で理学療法士として勤務後、理学療法士の専門学校、高知医療学院に勤務。1年間の海外研修制度を利用し、フランスに留学。フランス理学療法士向けの骨盤底リハビリテーション研修会を受講。また日本で開催されたアメリカ理学療法士協会の産前産後、骨盤底リハビリテーションの研修会も受講。

URL:https://www.luna-clinic.jp/

尿もれの種類を解説。4種類に分けられる「尿もれ」

尿もれは以下の4つに分類されます。

腹圧性尿失禁(ふくあつせいにょうしっきん)

腹圧性尿失禁とは、腹圧がかかったときに発生する尿もれです。せきやくしゃみをしたとき、重いものを持ったとき、ジャンプしたり走ったりしたときなど、腹圧がかかった際に尿がもれてしまう症状を指します。骨盤底筋が緩んでいる方が発症しやすい症状です。

切迫性尿失禁(せっぱくせいにょうしっきん)

切迫性尿失禁とは、突然尿意をもよおすことで発生する尿もれです。前ぶれなく突然尿意が発生して、トイレに到着する前にもれてしまうというパターンが一般的で、神経性と非神経性の2種類があります。神経性は、神経の異常によって尿意が突然発生する症状を指します。非神経性は、骨盤底筋の緩み・生活習慣の乱れなどが原因で、膀胱にうまく尿をためることができなくなったときに発症します。

溢流性尿失禁(いつりゅうせいにょうしっきん)

溢流性尿失禁とは、膀胱に尿が溜まりすぎてしまうことで発生する尿もれです。手術による神経損傷の影響など、排尿障害が起きた際に発症します。女性の場合は、子宮がんの手術の後に発症しやすく、男性の場合は前立腺肥大症の影響で尿道が圧迫されたときなどに発症します。

機能性尿失禁(きのうせいにょうしっきん)

機能性尿失禁とは、足が悪くて動けない・認知症の影響でトイレに行けない、などが原因で発生する尿もれです。膀胱などの泌尿器に問題はなく、物理的な要因によって発生する尿もれを指します。認知症や寝たきりなどの高齢者に多い症状です。

これら4つの中で、特に女性に多いのは腹圧性尿失禁・切迫性尿失禁の2つです。腹圧性尿失禁は産後に起こりやすく、切迫性尿失禁は40代・50代になると増えていきます。いずれも、「骨盤底筋の緩み」が関係しますが、特に腹圧性尿失禁と関わります

「尿もれ」が起こる原因は”骨盤底筋の緩み“?

1

では、骨盤底筋が緩んでしまう原因について解説します。

【骨盤底筋が緩む原因】

  • ・加齢
  • ・妊娠・出産(帝王切開の場合も)
  • ・更年期の女性ホルモンの低下
  • ・肥満・運動不足
  • ・便秘(排便時のいきみ)

このような要因で骨盤底筋が緩んでうまく機能しなくなると、尿もれなどのトラブルにつながります。また、女性は以下のような”骨盤底筋が緩みやすい時期”があるため、これらの時期は特に注意しましょう。

【骨盤底筋が緩みやすい時期】

  • ・妊娠・出産時(圧迫や断裂などの大きなダメージを受けて骨盤底筋が弱まる)
  • ・更年期(閉経前後の女性ホルモンの低下によって骨盤底筋が緩みやすくなる)
  • ・60歳以上(加齢によって骨盤底筋の筋力が緩む)

尿もれの原因!骨盤底筋の役割とは?

次に、尿もれの原因となる骨盤底筋とはどのような役割を持っているのかを解説します。

骨盤底筋の位置と役割

骨盤底筋とは、骨盤の底に3層構造で重なる筋肉(インナーマッスル)のこと。恥骨・座骨・尾てい骨にかけてハンモック状に広がり、尿道や膀胱、子宮、直腸などの臓器を下から支えています。骨盤底筋には、尿や便をためておき、出したいときに排出するといった、排せつをコントロールする役割もあります。

2

女性は骨盤底筋が緩みやすい

骨盤底筋が緩むと、意図せず尿がもれてしまう「尿失禁」や、子宮・直腸などが下がって膣や肛門の外に出てくる「骨盤臓器脱」といったトラブルが発生しやすくなります。その他に、「ポッコリお腹」、「おならが我慢できない」、「良い姿勢がキープできず、猫背になる」などのトラブルもあります。とくに女性は、骨盤底筋に尿道・膣・肛門の3か所に穴が開いているため、男性よりも骨盤底筋が緩みやすいといえます。

尿もれに効果的!今日から実践できる“3つ”の「骨盤底筋体操」

尿もれは、骨盤底筋体操によって予防・改善することが可能です。ここでは、3つの骨盤底筋体操をご紹介します。まずは「座って行う骨盤底筋体操」からチャレンジしてみてください

※体操を行う際のポイント。

【体操の基本】
・骨盤底筋を「締める」ことと「緩める」ことをワンセットで行う

【体操のポイント】
・息を止めず、呼吸しながら行う
・肩が上下に動いたり、骨盤が前後に揺れたりしないようにする
・力を入れすぎて、腹圧がかからないよう、いきまないようにする

【体操の回数と時間の目安】
・「締める・緩める」10回を1セットとして、30秒程度の休憩をはさみながら3セット
・1回3セットを1日に3回程度行う※回数が多い場合はできる回数から実施してもOK

骨盤底筋体操1:座って行う骨盤底筋体操

1.口から息をゆっくりと(3〜5秒かけて)吐きながら骨盤底筋を締めます。

3

骨盤底筋を締めるときは、尿や便、おならを我慢するイメージで、からだの中に引き込む(引き上げる)ように行うのがコツ。

このとき、陰部が座面から離れたり、陰部と座面に少しすき間ができたりするような感覚があればOK。陰部で座面を押し付けるのは間違いです。

また、自然な呼吸の状態でも行えますが、慣れるまでは、息を吐きながら骨盤底筋を締めるように意識すると感覚をつかみやすいでしょう。

2.骨盤底筋を引き上げるように締めたら、力を抜いて緩めます。

02

力を抜くと、引きあがった骨盤底筋は元の位置に戻ります。また、意識的に息を吸わなくても緩めると息が自然に入ってきます。この「締める・緩める」動作を繰り返すことで、骨盤底筋が鍛えられていきます。

正しくできているかわからないときは、下腹部の動きに注目してみてください。両手を腰骨の内側に当てながら「締める・緩める」の動作を繰り返してみましょう。

5

骨盤底筋が締まれば、手を添えている部分の下腹部の筋肉がキュッと引き締まります。間違っていきんでしまうと、お腹が少し出た状態になるので注意しましょう。

骨盤底筋体操2:仰向けで行う体操

1.仰向けに寝て、両膝を立てます。(足は開いていても、閉じていてもOK)

6

2.腰骨の少し内側に両手を当てます。

7

3.息を吐きながら骨盤底筋を締める・緩める動作を10回繰り返します。

骨盤底筋を締めるときに、骨盤が丸まらないようにするのがポイント。仰向けの姿勢は骨盤底筋に内臓の重みなどの負荷がかかりにくいので、初心者や筋力の弱い人でもやりやすいでしょう。

骨盤底筋体操3:立って行う体操

1.足を肩幅くらいに広げ、骨盤を少し後ろに引き、背骨はまっすぐに起こして立ちます。

8

2.腰骨の少し内側に両手を当てます。

9

3.息を吐きながら骨盤底筋を締める・緩める動作を10回繰り返します。

立った姿勢で行う場合は椅子やテーブルなどに両手を添えて行ってもよいでしょう。その際、背骨はまっすぐにして下腹部は突き出さないようにするのがポイントです。

10

お腹を突き出したり、腰を丸めたりしないようにまっすぐ立ちましょう。反対に反り腰にするのもNGです。また、骨盤底筋を締めるときにからだが上下に動いたり、背骨や骨盤が丸まったり反ったり、動かないように注意しましょう。

人によって骨盤底筋を動かしやすい姿勢は異なります。まずは分かりやすい姿勢からチャレンジしてみてください。

慣れたてきたら「自然な呼吸の状態で行ってみる」「骨盤底筋を締めた状態で息を止めずに5〜10秒ほどキープする」の2点を意識すると、日常の中で無理なく行える他、より効果的に骨盤底筋を鍛えることができます。

※今回ご紹介した以外にも骨盤底筋体操にはさまざまな種類があります。より詳しく知りたいという方はこちらをチェックしましょう。

骨盤底筋体操と合わせて見直したい尿もれ対策

11

尿もれが気になるときは、骨盤底筋体操と合わせて以下のような対策を試してみてください。

利尿作用のある飲み物の摂取を控える

利尿作用のあるカフェインを多く含むコーヒーやお茶、酸味の強い果汁100%ジュースなどの摂取を控え、麦茶などノンカフェイン飲料を摂るようにしましょう。

規則正しい生活を送る

不規則な生活によって体内のリズムが乱れると、自律神経に影響します。尿もれは自律神経の乱れによって引き起こされることもあるので、規則正しい生活を心がけましょう。

肥満に気をつける

お腹に脂肪が多いほど腹圧がかかると尿もれしやすくなります。カロリーの摂りすぎや運動不足などに気をつけましょう。

便秘にならないようにする

便秘になると排便時にいきんでしまいがち。便秘にならないように、1日に1~1.5リットルを目安に水分を摂るようにするとよいでしょう。食物繊維を多く摂るなど、食生活の見直しや適度な運動も大切です。

このほか、椅子から立ち上がったり、くしゃみやせきをしたりする前に、骨盤底筋を締めてから行うことで尿もれを予防できます。

尿もれの症状が改善されないときは医療機関へ

骨盤底筋体操は筋トレの一種なので、効果が出るまでにある程度の時間が必要です。
人によっては早く改善される場合もありますが、最低でも2〜3か月は続けるようにしてください。

ただし、骨盤底筋の収縮を正しく行えていないと効果が表れにくいこともあります。尿もれの改善には、正しいトレーニングを毎日続けることが大事です。

骨盤底筋体操がうまくできない場合は、専門家のアドバイスを受けてみてください。また、体操を行っても尿もれの症状が改善されないという方は、医療機関や専門クリニックの受診を検討しましょう。